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誰が群衆を殺したのか

 イスラム教シーア派の巡礼者たちがパニックになったことから起きた橋の上の惨事により、死者965人、負傷者は465人に上ったという。

 「群衆の中に自爆テロ犯がいる」
という噂が引き金になったそうだ。

 自分の目でテロ犯を見た訳ではないのに、お互いの行動を見て、皆が逃げているのだから、事実なのだ、と思い込み、お互いを押し潰し、川に飛びこみ、死んでいった。

 誰かの噂を衝動的に信じ、興奮性が高まり、判断力が低下した「群集心理」が最悪の方向へ働いた結果である。


 群集心理のもっとも有名な例としては、宇宙人の襲撃が挙げられる。
 
 1938年、アメリカの人々は、

「火星人が攻めてきた!!」

と、大パニックに陥った。

誰が群衆を殺したのか_d0051212_002121.jpg 実のところは、若干23歳の巨匠オーソン・ウェルズのラジオ・フィクション「宇宙戦争」(著:H.G.ウェルズ)の実況であった。

 彼の演技が真に迫っていたことが大パニックの最大の原因ではあるが、家や車の中でラジオを楽しんでいた人々が、余りの迫力に思わず外を見ると、不安げに空を見上げて逃げ惑っている人々でも見つけてしまったのだろうか。

 結局、誰一人、宇宙人を見た人はいなかったはずである。

 最近、上映されていたトム・クルーズ主演の映画「宇宙戦争」では、トムさん一家が車で町を逃げ出そうとしたところ、暴徒と化した群集が逃げ足を求め、たった一台の車に押し寄せ、車の窓を叩き割る、というシーンがある。

 宇宙から舞い降りる不気味なタコアシ星人たちより、生身の人間たちが最も恐ろしい、と認識した。

 その思いをより強くさせたのが、ハリケーンに襲われたニューオリンズでの略奪行為であった。

 警察官までもが混じって、無人の店舗から次々に商品を奪っていた。

 それだけでなく、ニューオーリンズ市内は武装ギャングが横行し、無秩序化しているという。


 群集心理の研究は、フランス革命時のフランスの学者ル・ボンによる提唱に始まった。

誰が群衆を殺したのか_d0051212_00244.jpg フランス革命では、普通の人々が囚人を殴り殺し、そして、普通の老若男女がそれを見て笑いあう、という9月虐殺が発生した。

 「普通の人々」は、きっと、普段の生活の中では、たまに拾った小銭をポケットに忍ばせる程度の、善良な人々であったのだろう。

 善良な人々だって、群集心理によって、凶悪殺人者顔負けの人々になり得る例である。


 群集心理は人を凶暴化させるだけでなく、時として人を「マヌケ化」する。

 大勢の人が見守る中で、女性が刺し殺されたり、人が殴り殺された例もある。

 誰かが通報するだろう、と皆がマヌケになってしまった結果である。

 また、津波による避難勧告で避難する人は非常に少なく、平均して50%以下だそうである(フジTV・アンビリのサイトより)。

 半分の人が勧告を甘く見ていると、それを見た人々もマヌケ化し、判断を誤るのだ。

 
 群集心理が働いて良くなった例は、調べられなかった。

 せいぜい、何かの商品が「群集心理」によって激ウレし、経済効果があった、というくらいのものではないか。

by sitejm | 2005-09-06 00:00 | 心理学